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娘と世界中の人々に宛てた未来をより良くするためのヒント「父が娘に語る経済の話。」/ヤニス・バルファキス

読書感想文~1冊目~

父が娘に語る
美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい
経済の話。

ヤニス・バルファキス=著
関 美和=訳


先日、ヤニス・バルファキス著の「父が娘に語る経済の話。」を読みました。
「美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい」と題名につけて、自ら煽っていくスタイルのこの本ですが、父が十代の娘に向けて書いた本です。
「パパ、どうして世の中にはこんなに格差があるの?人間ってばかなの?」原文ママ)という娘の疑問に回答するため、経済について噛み砕いて説明していきます。

この本は娘に語るという形式をとっていますが、その実、全世界の人に充てられた「未来をより良くするためのヒント」だと思います。

因みにヤニスさんはギリシャ経済危機のときの財務大臣で、個人的にショッピングモールを忌み嫌っています。

 

① 超ざっくりとした内容

冒頭で触れたように、本書は娘の「どうして世の中にはこんなに格差があるの?」という疑問からスタートします。
この純粋な疑問、難しいですよね。
「頑張って働いている人と怠けている人がいるから」とか単純な理由なら救われるのですが、実際そうではないです。
家系、地域、国・・・。
残念ながら、生まれたときから貧富はあるわけです。
では、何故そんな仕組みになっているのか。
それを説明するために、ヤニスさんはまずイギリスがアボリジニを侵略できた理由を語ります。


イギリスがアボリジニを侵略できた理由は、豊かな自然に恵まれたオーストラリアに比べ、イギリスは食料に苦労する土地だったためだとヤニスさんは言います。
どういうことかと言うと、イギリスで多くの人々が暮らそうとすると、狩猟だけでは足りず、農耕をせざるを得ません。
農耕をしていると凶作や台風などの災害などで食料が得られないことがあるため、将来に備えて農作物を蓄えるようになります。
この蓄え、つまり「余剰」が社会の発展の大きばポイントになります。
ある共同生活単位で「余剰」を管理しようと共有の倉庫を用いたとすると、誰がどれだけ蓄えがあるかを記録する文字が必要になります。
そして、文字により記録した「余剰」を他者とスムーズに交換するために、通貨などの経済的な概念が生まれます。

そして、通貨の価値を保つためにはそれを保証してくれる大きな力、つまり国家が必要になります。
その国家を守り、運営していくために、軍隊や法律や宗教などが生まれます。

このように農耕から生まれた「余剰」を起点として、イギリスのような国家が生まれていったのです。

逆に豊かな自然を持つため農耕の必要がなく、「余剰」が生まれなかったアボリジニでは、国家や軍隊は成熟せず、イギリスの侵略を許す結果となってしまいました。

つまり、イギリスがアボリジニを侵略できた理由は、「余剰」が生まれたか否かにあった、とヤニスさんは言います。

このように本書では、時には歴史、時にはフランケンシュタインのような小説、時にはマトリックスのような映画など身近なもの・理解しやすいものを題材に「社会、経済がどのように作られてきたかという過去の話」、そして、「これからの未来、言い換えれば、ヤニスさんの娘が生きていく時代についての話」が展開されていきます。 

② ヤニスさんが期待したこと

イギリスとアボリジニの話で出てきた「余剰」が生む格差というのは過去の話ではありません。
現代においても、例えば、多くの富を持った一部の人が素晴らしい機械を買って、その所有者のみに多くの富を生み出すという構造になっています。

格差の質問をしたヤニス娘も一部の人が豊かである不条理を感じていたに違いありませんが、本書でヤニスさんはその不条理な社会構造を説明してきます。

ヤニスさんが本書中で語る諸問題(「格差社会」や「自然破壊も厭わない経済至上主義」など)は非常に大きな問題であり、正直一人の人間にどうにかなるレベルではないように感じます。

では、ヤニスさんは本書を通してどんな期待をしたのでしょうか。
私は2つの期待を感じました。


1つ目は、娘に「社会を知り、経済を知り、自分の正しいと思うことを主張し、実行できる人間になって欲しい」ということ。
ヤニスさんは、アイスクリーム1つ買うにしても環境や社会問題に真摯な会社の商品を選んだ場合、それは1つの主張だと言っています。
ただし、アイスクリームを買って企業を支援するというのはあまりに社会的なインパクトに欠けます。
インパクトを出す方法として示唆されているのは、「(A)いっぱい買うことができるお金を持つこと」「(B)みんなでやること」です。
ヤニスさんは「(B)みんなでやること」を推奨しているフシがあり、現に本書中には続編を娘に書くように軽めに促す場面もあります。
ヤニスさんは娘が社会を変える先導役になることも少し期待しているのではないでしょうか。

そして、2つ目の期待は、娘と同じ時代を生きる世界中の人々の意識を変えることです。
本書は娘への語りかけという形式をとっていますが、提示された解決すべき課題は一人の人間が同行できるレベルではなく、あまりにも大きく根深いのです。
つまり、行動してほしいのは娘だけではないはずです。
娘と同じ時代を生きる人間全てに伝えたいはずで、それが世界をいい方向へ進めると信じているのです(たぶん)。

父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。 [ ヤニス・バルファキス ]

価格:1,650円
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感想(4件)

③ 【考察】お金という変動する価値

本書の中で、第2次世界大戦中のドイツの収容所でタバコが通貨になった話が出てきます。
収容所には、定期的に外から「タバコ、紅茶、コーヒー、チョコレート」といった物資が囚人たちに届けられます。
出身国の違う囚人たちは好みが異なり、コーヒーは飲まないけど、紅茶が好きだったり、その逆だったりします。
そうするとどうでしょう、普通に交換しますよね?
ここで、イギリスの話で出てきたように、スムーズに物々交換をするために、通貨が生まれます。
その通貨となったのが、携帯に便利で好む人が多いタバコでした。
しかし、通貨としてのタバコの価値は日々変動します。
例えば、届いた物資の中にタバコが多くコーヒーが少ないと、コーヒーの価値が相対的に上がり、タバコの価値は下がります。
また、近くで空爆が起こると、不安からタバコの消費量が多くなり、タバコの価値は上がったそうです。
そして、解放が近いことを知った囚人たちは、タバコを貯める必要が無くなり、タバコは通貨としての機能を失っていきます。
最終的に、アメリカ軍により解放された瞬間、タバコを通貨としたささやかな経済システムは崩壊します。

この話の面白い点は、収容所という閉鎖空間で通貨が生まれて崩壊したこともさることながら、通貨の受給による価値変動がはっきりとわかる点だと思います。
皆が欲しければ通貨の価値は上がり、必要としなければ下がるわけです。
この受給による価値変動は我々の生活でも起こっており、現に為替は絶えず変動しております。
通貨の価値が一定ではないというこの事実を理解することは、リスクヘッジのために資産を分散することの意味を知ることかと思います。
平たく言うと、現金だけを持つよりも投資したほうがいいという意味です。

④ 【考察】日本の消費税増税は何故ダメだったのか

御存知の通り、日本では2019年10月から消費増税がされていますが、これについて考えさせられるのが本書の「予言は自己成就する」の部分です。

ここでは「オイディプス王」という戯曲が紹介されます。
この戯曲では2つの予言がオイディプスの人生を大きく変えています。
1つ目はオイディプスが生まれる前にされた「オイディプスが父を殺す」という予言。
この予言により、テーバイという国の王子として生きていくはずだった赤ん坊のオイディプスは、召使いにより山に捨てられてしまいます。
2つ目は紆余曲折を経て他国の王の養子となったオイディプスにされた「オイディプスは母と結婚する」という予言。
この予言を恐れたオイディプスは失意の旅に出ます。
その旅の途中、テーバイを通りかかったオイディプスは偶然実の父に会い、道を譲る譲らないというどうしようもない諍いから父を殺し、1つ目の予言を実現させてしまいます。
更に、何故か怪物からテーバイを救ったオイディプスは、救世主としてテーバイの国王となります。
そして、習慣に基づき、前国王の未亡人つまり母と結婚することとなり、2つ目の予言を実現します。

1つ目の予言がなければオイディプスは捨てられることもなく平和に暮らしたかもしれませんし、2つ目の予言がなければ失意の旅に出ることもなかったでしょう。
この戯曲では、運命の皮肉的さを語っていますが、ヤニスさん曰くこの予言の力はマーケットでも発揮されます。

景気があまり良くない中での消費増税で例えるとこんな感じかと思います。
「景気があまり良くないと思っているところに消費増税がされる」→「多くの人が消費が抑えられて経済成長の妨げになると考える(予言する)」→「実際に個人は消費を抑えたり(=国内消費が減る)、不景気に備えて経営者は人件費を削る(消費者に渡るお金が減る)」→「実際に経済成長が妨げられる」
実際に日本がこうなるかはまだわかりませんが、シンプルで理解しやすい連想ゲームではないでしょうか。

なお、私の景況感的には、現在のコロナと原油下落による株価下落は一時的で、年末にかけて上昇に転ずると楽観しています(怖いのでちょっとしか株は追加していませんが・・・)。

⑤ 所感

本書中に明記はなかったと思いますが、ヤニスさんはこのままでは未来が悪い方向に向かうと思っているように感じます。
ヤニスさんにとって、その未来を生きていくのは娘なわけです。
つまり、未来をより良くするということは娘を幸せにすることに他ならないのです。

物事を改善するためには問題点を正しく認識しなくてはいけません。
そのため、本書では社会を負の部分も含めて丁寧にわかりやすく説明しています。

私はというと、これまでSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)など、社会・環境問題で掲げられている言葉にあまり意義を感じていませんでした。
しかし、本書を読んで、社会をより良くしようという動きの重要さを学びました。
ただ、私一人ではダメで、みんなが認識する必要があるのです。
このブログでは伝えきれていないことも多いため、是非本書を手にとってみてください。
それでは。

父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。 [ ヤニス・バルファキス ]

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感想(4件)